シュンペーター『経済発展の理論』


はじめに

理論経済学の本質と主要内容 (上) 経済発展、それは企業者による「新結合」(のちに「イノベーション」と呼ばれるようになる)がもたらすものである!

 独自の経済発展理論と、これに基づく景気循環理論を打ち出した、シュンペーターなんと20代後半の作品。
 

1.静態的経済の分析

 動態的な経済発展の分析を始める前に、シュンペーターは、まず発展のない静態的経済の分析を行う。

 静態的経済とは何か。

「各経済期間においては先行の経済期間において生産された生産物――消費財あるいは生産財――のみが消費され、次の期間において――消費財あるいは生産財として――消費されるもののみが生産されるということである。」

 ある時期に生産されたものだけが消費され、その消費に必要なもののみが生産される。要するに、それはいっさいの利潤のない経済状態のことである。

 もちろんこれは、話を分かりやすくするためのモデルにすぎない。このモデルを置くことで、シュンペーターは、静態的経済がどのような条件によって動態的経済、つまり経済発展へと飛躍するのかを明らかにしようとするのだ。

 静態的経済における「本源的生産要素」、それは、シュンペーターによれば「労働」「土地」である。というのも、「他のすべての財は少なくともこの一つから、また多くの場合この両者から「成り立つ」からだ。

 というわけで、静態的経済における経済主体は、「労働者」「地主」だけと考えていいとシュンペーターは言う。逆に言うと、ここから何か新しい財なりサービスなりを作り出す者が現れた時、それは「動態的経済」の次元に突入するのだ。

 ちなみにシュンペーターは、スミスリカードら古典派の経済学者は、皆結局のところ「静態的経済」の分析をしていたにすぎないと指摘する。

 唯一マルクスのみが「動態的経済」を考えたが、しかし結局は古典派の理論内で考えたために、これをうまく捉えられなかった。

 一般均衡理論を定式化したワルラスについても、シュンペーターは次のように言っている。

「いかなる叙述といえどもレオン・ワルラスのそれより「いっそう静態的」なものはない。」

 しかし、資本主義経済を分析するためには、わたしたちはどうしても「動態的経済」を見なければならない。

 と言うわけで、シュンペーターは続いて、独自の「動態的経済」分析を繰り広げていく。


2.新結合

 経済発展とは何か。シュンペーターはまず次のように言う。

「「発展」とは、経済が自分自身のなかから生み出す経済生活の循環の変化のことであり、外部からの衝撃によって動かされた経済の変化ではなく、「自分自身に委ねられた」経済に起こる変化とのみ理解すべきである。」

 ではその発展は、いったい何によって起こるのか?

 そのキーワードが「新結合」だ。
 
 「新結合」には次の5つがある。


1.新しい財貨
2.新しい生産方法
3.新しい販路の開拓
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5.新しい組織の実現

 シュンペーターは言う。

「このような新結合の遂行にともなう諸現象にとって、またそのさいに生ずる諸問題の理解にとって、二つのことがらが重要である。〔中略〕新結合、とくにそれを具現する企業や生産工場などは、その観念からいってもまた原則からいっても、単に旧いものにとって代わるのではなく、一応これと並んで現われるのである。」

 そして言う。

一般に新結合は必要とする生産手段をなんらかの旧結合から奪い取ってこなければならならない。」


 「新結合」、それは、旧来のビジネスと並んで現れ、そしてやがてはこれを駆逐する、「創造的破壊」のプロセスなのだ。


3.企業者

 この「新結合」を遂行する者のことを、シュンペーターは「企業者」と呼ぶ。 

「われわれが企業(Unternehmung)と呼ぶものは、新結合の遂行およびそれを経営体などに具体化したもののことであり、企業者(Unternehmer)と呼ぶものは、新結合の遂行をみずからの機能とし、その遂行に当って能動的要素となるような経済主体のことである。」

 したがって、「新結合」ができなくなった者のことを、シュンペーターはもはや「企業者」とは呼ばない。

「だれでも「新結合を遂行する」場合にのみ基本的に企業者であって、したがって彼が一度創造された企業を単に循環的に経営していくようになると、企業者としての性格を喪失するのである。」

 それゆえシュンペーターは、「企業者」は選ばれた特別の経済主体であると言う。そしてその特徴を次のように言う。

「指導者はそれ自身、新しい可能性を「発見」したり「創造」したりしない。新しい可能性はいつでも存在し、人々によってその日常の職業労働の過程において豊富に蓄積されており、またしばしば広く知られており、文筆家が存在する場合には宣伝もされているのである。〔中略〕 指導者機能とはこれらのものを生きたもの、実在的なものにし、これを遂行することである。    

 シュンペーターによれば、リーダー的な「企業者」は、新しい可能性を「発見」したり「創造」したりする単なる「技術者」ではなく、これを「遂行する」者なのだ。

「発明家あるいは一般に技術者の機能と企業者の機能とは一致しない。

 さらにシュンペーターは、こうした「企業者」をつき動かすものについて次のように言う。


第一に、私的帝国を、また必ずしも必然的ではないが、多くの場合に自己の王朝を建設しようとする夢想と意志がそれである。

次に、勝利者意志がある。

最後に、創造の喜びは上述した一群の動機の第三のものであって、これはたしかに他の場合にも現われるが、この場合にのみ行動の原理を定めるのである。


4.資本家

 さて、この「企業者」は、新結合を遂行するにあたってどうしても資本(お金)を必要とする。

 そこで登場するのが「資本家」だ。

 シュンペーターの言う「資本家」は、通常の意味での資本家とは少し違っていて、「銀行家」のことをさしている。

 資本とは何か。シュンペーターは言う。

それは購買力の基金である。

 企業者は、これを銀行家から借り受ける。

 こうして、発展のある資本主義社会においては、金融市場が「中央本部」の役割を担うことになる。これがなければ、企業者は「新結合」を行うことができないからだ。

金融市場はつねにいわば資本主義経済の中央本部であり、ここから各部門に命令が発せられるのであって、ここで論議されここで決定されることは、つねにその最も内面的な本質において次の発展計画を確定することである。


5.企業者利潤

 企業者は資本家の支援を受けて「新結合」を遂行する。

 ここで得られるのが「企業者利潤」だ。そしてこれこそが、経済発展の根本現象である。

「発展なしには企業者利潤はなく、企業者利潤なしには発展はない。」

 「利子」も同じだ。発展なしに利子はない。そしてその利子は「企業者利潤」から流出するのだ。


6.景気循環

 以上の「新結合」理論から、シュンペーターは独自の景気循環論もまた展開している(のちの『景気循環論』で、その過程はさらに詳細に分析されている)。

 「新結合」は、社会に「好況」をもたらすことになる。企業者利潤が出れば、それが購買力となって他の財へとおよんでいくからだ。

 ところが、「新結合」による新しい財貨の登場は、まずそれを作るための生産手段の値上がりをもたらすことになる。

「繁栄においては、新しい購買力に基づく企業者の生産手段に対する需要、またこの需要によって惹き起こされる周知の「生産手段の獲得競争」(レーデラー)が生産手段の価格を高める。」

 さらに、「新結合」の成功は、ほかの多くの人もまたこのビジネスへと参入させることになる。その結果、新商品やサービスの価格は、競争を通して下がっていくことになる。

 それはつまり、企業者利潤の低下にほかならない。

 また、「企業者」はそのビジネスの過程で、銀行にお金を返済していかなくてはならない。

「負債の返済はまさしく新しく創造された購買力の消滅をもたらすのである。」

 こうして、経済発展は徐々にその速力を失っていく。

 シュンペーターによれば、これが「不況」が起こるメカニズムである。つまり「不況」は、好況が必然的にもたらす現象なのだ。

「好況はそれ自身内的必然性をもって多くの企業に損失をもたらし、デフレーションを別としても価格低下を惹き起こし、さらに信用収縮によるデフレーションを惹き起こす――これらの現象は事態の経過の中ですべて二次的に強められる。」

 ケインズ以来の経済学は、不況は「有効需要」の不足によって生じると考えてきた。

 シュンペーターの景気循環理論は、これと対立する独自なものだ。

 ケインズの登場は、シュンペーターの影をかなり薄いものにしてしまった。

 しかし、彼がケインズにはなかった視点を与え続けてくれていることもまた、わたしたちは忘れてはならないだろう。



(苫野一徳)

Copyright(C) 2014 TOMANO Ittoku  All rights reserved.