ベーコン『ニュー・アトランティス』

 
はじめに

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 実はシェイクスピアと同人物だったのではないかという噂も立てられたほど、文才に恵まれていたベーコン。本書は小説仕立ての作品だが、その舞台設定からストーリーから、実際なかなかに面白い。

 ペルーから、船で日本、中国をめざした主人公たち。ところが途中で船は難破し、島国ベンサレムに漂着する。

 それは、ヨーロッパの誰からも知られず栄えてきた文明国だった。

 ここで主人公たちは、「サロモンの家」という宗教団体にして学術団体の存在を知る。

 それは、科学に携わる者にとって、ほとんど信じられないほどの理想郷だった……。

 ベーコンが夢にみた、来るべき学問ユートピアの世界が繰り広げられている。


1.キリスト教国ベンサレム

 漂着後、実にあたたかいもてなしを受けた主人公たち。聞いたところ、ベンサレムもまたキリスト教国なのだという。

 国の高官は、ベンサレムがキリスト教国になったいきさつをこう話す。

 ある時、海の中に光の柱と光の十字架が現れ、その後小さな箱が浮かび流れてきた。

 開けてみると、そこには聖書と一通の手紙が。

 以来ベンサレムは、ヨーロッパから遠く離れながらも、キリスト教国になったとのことである。


2.サロモンの家と学問のユートピア

 ベンサレムに滞在してしばらく経ったある日、一行は「サロモンの家」という宗教・学術団体の長老に出会い、その最先端の科学技術について聞かされることになる。

 ベーコンの理想がめいっぱいつまった記述が連なる。以下少し引用してみよう。

「わが学院の目的は諸原因と万物の隠れたる動きに関する知識を探り、人間の君臨する領域を広げ、可能なことをすべて実現させることにある。設備と器具は以下のごとくである。われわれはさまざまな深さの大きな洞窟を有している。もっとも深いものは六百尋〔約千百メートル〕に及び、あるものは大きな岡や山の下を掘って作られている。」

 とこう始まって、この学院がもつさまざまな施設が披瀝される。

 たとえば塩水を淡水に変える貯水池や、健康長寿のために作られた湖、人工的に雪や雹、稲妻を作り出す機械、解剖実験室や動物園、植物園、果樹園、光学研究所や数学研究所、はては錯覚研究所などもある。

 このように学問のユートピアの姿が延々と述べられるが、残念ながらこのあたりで本書は未完に終わる。


(苫野一徳)

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