シュタイナー『子どもの教育』

はじめに

 シュタイナーの評価は、教育学の世界では未だはっきりと定まっていない。

 人智学霊学という独自の学問を体系化した、かなりオカルト的な人、というイメージが一方にある。

 その一方で、世界に広がった「シュタイナー教育」の創始者として、カリスマ的人気を誇っている。

 私自身は、シュタイナーは万学に通じ、類まれなる人間洞察力をもった、相当な天才だったと考えている。

 確かに彼は、かなりオカルト的なことを言っているし、たぶんほんとうに、エーテル体とかアストラル体とか彼がよぶものが見えたのに違いない。

 しかしそれは、検証不可能である以上、あまり説得的な理論であるとはいえない。

 とは言うものの、彼がその独自の人間観に基づいて構築した人間論は、まったく驚くほどに上質のものだ。


1.霊学とは何か

 シュタイナーは、独自の「霊学」というものを体系化した。これは人間をその全体において捉える学問で、彼はこの霊学に基づいて、人間の成長や教育について考えた。
 
 シュタイナーによると、われわれは単なる肉体存在ではなく、エーテル体アストラル体をもった存在である。

「肉体を超えたところに、さらに第二の人間本性として、生命体もしくはエーテル体が働いている。」

 つまりエーテル体とは、躍動感あふれる生命体のことだといっていい。

 アストラル体は次のように説明される。

「人間本性の第三の分肢は、いわゆる感覚体(もしくはアストラル体)である。この体は、苦と快、衝動、欲望、情念等の担い手である。」
 
 シュタイナーによると、人間は生れて最初の7年は、主として肉体存在であり全身が感官のような存在である。そして次の7年は、エーテル体が優位となって、生き生きとして生命にあふれる時期。さらにその次の7年は、アストラル体が優位となって、感情と知性が発達する時期となる。

 このそれぞれの時期にふさわしい教育を行うこと、それがシュタイナー教育論の核心だ。

 シュタイナーはまるでエーテル体とかアストラル体とかが実在するかのように書いているが、それは検証不可能だから、これまで多くの人たちによって一笑に付されてきたところがある。しかしそれでも、なぁるほど、確かに人間の成長はそういう段階を踏んでいるよなぁ、と唸らされる部分も確かにある。


2.成長段階に応じた教育

 こうしてシュタイナーは、それぞれの時期に応じた教育方法を編み出していく。それはとても独特で、かつ創造性に富んだものだ。

 まず最初の7年期、子どもは、とにかく全身を感官として模倣をする存在だ。

 だからこの時期には、手本がとりわけ重要になってくる。

「この方向で考えれば、子どもに正しい働きかけができるのは、道徳的なお説教や理屈にかなった説明などではなく、周囲のおとなが子どもの眼の前で行う行為なのだ、ということが分かる。」

 次の7年、つまりエーテル体が優位になる時期に大切なことは、尊敬畏敬だ、とシュタイナーはいう。

 この時期は、とにかく生き生きとした生命感にあふれる時期だ。だから尊敬できる人に出会うと、その力をより伸ばそうと思うことができる。「自分もこんな人になりたい」「この人に認められる人になりたい」といったように。

 この時期はまた、「記憶力」が発達するときでもある。

「唯物論的な思考方法は〔中略〕理解できないものを暗記させようとすることに対して、可能な限りの洗練された方法で、非難を加える。

 確かに理解することは大切である。しかし理解することだけを大切にする唯物論的な思考は、抽象的な概念なしに事物の本質に関わることなど不可能だ、と信じている。事物を理解するのには、別な魂の働きが、少なくとも知性と同じ程度に必要だということが、理解できないのだ。

 感情や感覚や心情によっても、知性によるのと同じように、事柄の本質が理解できる。概念は世界を理解する諸手段の一つであるにすぎない。」

 理解できないことを記憶することは無意味である、と教育関係者は思いがちだ。しかしエーテル体が生き生きとしているこの時期、子どもたちは何でも貪欲に吸収するものだ。感情や感覚や心情、あらゆるものをつかって、彼らは物事を理解しようとする。そうして記憶の中に、いろんなものがたまっていく。

 だからこの時期は、「知性」で理解してから記憶する必要など別にない。むしろ、体で覚えたことが、やがて次の時期、つまりアストラル体が優位な時期になって、「知性」によってよりはっきりと理解されることになるのだ。

 とかく「知性」だけでものを考えさせようとする現代の教育に、大きな示唆を与えてくれる洞察といえるだろう。

 子どもたちは、体で覚えることだって、また感情で覚えることだってできるのだ。

(苫野一徳)



Copyright(C) 2009 TOMANO Ittoku  All rights reserved.