ペイン『コモンセンス』

はじめに

 1776年、匿名で出版された本書は、またたくまにアメリカにおいて大ベストセラーとなった。

 時はまさに、アメリカ独立戦前夜。(実際には、戦争は75年、レキシントンの戦いにおいて始まっていた。)

 当時のアメリカでは、イギリスからの分離独立を口にすることはほとんどタブーだった。イギリスの官憲から、告発される恐れもあった。(75年の段階でも、大陸会議のほとんどのメンバーはまだ独立を考えてはいなかった。)

 しかしペインは、「今こそ独立の時」と、声高に主張した。幾分大げさな表現を多用し、人々を独立へと熱く盛り立てた。

 出版半年後の「独立宣言」に、そしてフランス革命にも多大な影響を与えた、歴史を動かした1冊だ。


1.政府の起源

「社会はわれわれの必要から生じ、政府はわれわれの悪徳から生じた。前者はわれわれを愛情で結合させることによって積極的に幸福を増進させるが、後者は悪徳を抑えることによって消極的に幸福を増進させる。一方は仲良くさせようとするが、他方は差別をつくり出す。前者は保護者であるが、後者は処罰者である。」

 素朴にすぎる言い方ではあるが、人々に訴えかける力を持っている。続けてペインは、イギリス政府の害悪を説く。



2.イギリスの政治批判

「憲法は、すでに国王以上に賢明であると想定した下院よりも、国王のほうが賢明であると想定しているのだ。なんというばかげたことか。」
「したがってわれわれは懸命にも絶対王政の出現を阻止するため戸を閉めて錠をおろしたが、同時に愚かにも国王に鍵を渡してしまったのだ。」

 イギリスは絶対王政を免れたが、結局憲法は、下院の提出した法案に対する国王の否決権を認めてしまった(特にジョージ3世のことを言っている)。

 結局人々の自由は、保障されない政体になっているのだ。

 そのようなイギリスの不当な支配から、アメリカは脱却する時だ。ペインはそう訴える。



3.今こそ分離せよ!

「ああ!長い間われわれは昔ながらの偏見に支配され、また迷信にとらわれて大きな犠牲を払ってきた。イギリスがわれわれを守った動機が愛情ではなくて打算であることを考えもしないで、またイギリスはわれわれのためにわれわれの敵から守ってくれたのではなく、イギリスのためにイギリスの敵からわれわれを守ったことを考えもしないで、その保護を誇りにしてきた。」

 そのようなイギリスに、いつまでも愛着や忠義を感じる必要はない。ペインは言う。

「殺された者の血が、自然の泣き声が『今こそ分離すべき時だ』と叫んでいる。」

 ペインはさらに、分離独立後の政体についても論じている。それは独立後、基本的には現実のものとなった。ペインは次のようにも言っている。

「われわれが俗世間の名誉に欠けていると思われないようにするため、とくに憲章を公布する日を神聖な日として区別しよう。そして憲章を持ち出して神聖な法である聖書の上におき、その上に王冠をかぶせよう。これによって世界はわれわれが王政を容認するのはこの程度であるということを知り、またアメリカにおいては法が国王であることを知るであろう。」

(苫野一徳)


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